転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


150 本は本屋さん以外でも売ってるんだって



 今日の研究はもう終わりって事でお片付け。

 とは言っても僕が何かをするわけじゃなく、ロルフさんたちが実験用の道具をしまってる所を見てるだけなんだけどね。

「やはり私も何かお手伝いをいたしましょうか?」

「いやいや、こう言う物は置き場がきちんと決まっておるからのぉ。それを知らぬ者に任せると後々苦労する事になるのじゃ。じゃからライラはそこでルディーン君の相手をしておればよい」

「そうですよ。手伝いは私の任せて、ストールさんはそこで休んでてください」

 実はストールさんも僕と一緒にその様子を見てたんだ。

 けど、主人であるロルフさんがお片付けをしてるのに自分だけ見てるのはいやだったみたいで、手伝うよって言いだしたんだけどあっさり断られちゃった。

 おまけにペソラさんにまで任せてって言われたもんだから、浮かしかけた腰をもう一度椅子に下ろしたんだ。

 でも仕方ないよね。だってストールさんは普段、東門の外にあるロルフさんのお家にいるから、あんまり錬金術ギルドに来ないって言ってたもん。

 じゃあ実験する道具がどんな風にしまってあるかなんて知るはず無いんだから、ここは僕と一緒に見てるだけの方がいいと思うんだ。

 下手に手を出すと、かえってロルフさんたちの邪魔になっちゃうもんね。

「ねぇ、ストールさん」

 でもさ、ただ座ってるだけなのはいやそうだったから、僕はストールさんにあるお願いをしようって思ったんだ。

 そしたら僕の相手をするって言うお仕事をしてることになるし、その方がロルフさんたちのお片付けをただ見てるだけよりいいんじゃないかと思ったから。

「はい。いかがなさいましたか? ルディーン様」

 そしたらまじめな顔をしてるけど、どっか嬉しそうにストールさんが何か用事でもあるの? って返事をしたんだよね。

 だから僕は、用意してたお願いの内容を話したんだ。

「あのねぇ。今日はまだお父さんやお母さんにお話して無いし、これからだと帰るのが遅くなっちゃうから行けないけど、今度イーノックカウに来た時は本屋さんに連れて行って欲しいんだ」

「本屋ですか? それは構いませんが、どのような物をお探しでしょうか? それによって向かう店が変わりますが」

 えっ、買う本の中身によって行く本屋さんが違うの?

 僕、本屋さんがそんなにいっぱいあるなんて聞いて、本当にびっくりしたんだ。

 だって前にヒュランデル書店に行った時は売ってる本が取られちゃわないようにって扉の前に門番みたいな人が居て、おまけにお店に入ったら外から鍵をかけられちゃったんだもん。

 本ってそれくらい高いから、いくらイーノックカウが大きな街だからって言ってもそんなに何軒もあるなんてまったく思わなかったんだ。

「本屋さんっていっぱいあるんだね。僕、前に行ったお店しか無いって思ってたよ」

「はい。本を扱っている場所は複数ございます。このイーノックカウでも流石に専門書から物語まで取り揃えている専門店はヒュランデル書店くらいですが、魔法の基礎を学ぶ為の本でしたら魔術師ギルドや魔法を教えている私塾でも取り扱っておりますし、個人が書き上げた物語を幾つか取り扱っている雑貨屋などもございます」

 ストールさんが言うには、作った詩とか物語を自分で本にしてる人たちがいるらしいんだけど、そう言うのはヒュランデル書店では売ってくれないから大きな雑貨屋さんにおいてもらってるんだって。

「そのような本でも貴重な物には代わりがありませんから、露天などでは買えません。ですから雑貨屋と申しましても、きちんと店を構えた所にしかございませんから、ルディーン様がご存じないのも仕方ないかと存じます」

「そっか。僕、あんまりお店には入ったこと無いから知らなかったよ」

 僕が入ったことあるお店って言ったら、お父さんと行った酒屋さんとか村に買って帰る食べ物をいっぱい買ったとこくらいだもん。

 雑貨は露天でしか買ったこと無いから、そんなお店がある事も知らなかったんだ。

「それでルディーン様は、どのような本をお探しで?」

「村の図書館においてある魔法のご本に魔法が使える魔道具の作り方が載ってたんだ。でね、その魔道具を作るには魔法陣が必要らしいから、その魔法陣が載ってるご本や書き方が載ってるご本が欲しいんだよ」

 そう、僕がほしかったのは魔法陣について書かれてる本なんだ。

 今の僕が知ってる魔道具の作り方だとただ火とか水を出したり、なにかを冷やしたり凍らせたりするみたいな単純な事しかできないんだよね。

 でも魔法その物を封じ込めた魔道具が作れるなら、いろんな事ができるようになるもん。

 だから僕、何とかして魔法陣が描けるようになりたいって思ってるんだ。

「魔法陣の本ですか? でしたら専門書ですからヒュランデル書店ですね」

「やっぱりそうなんだね。ならお父さんから銀のカードも借りてこなきゃ」

「銀のカード、ですか?」

「うん。次来る時はそれを持ってきてお店の人に見せてねって、エルフのお姉さんに言われたんだよ」

 ストールさんに話したのは、僕が前にヒュランデル書店に行った時にお父さんがもらってた銀のカードの事なんだ。

 前に本屋さんに行った時、あのカードを見せたら呼んでもらえる様にして置くから必ずお店の人に見せてねってお姉さんが言ってたもん。

 行くなら持っていかないと怒られちゃうから、ちゃんと忘れずにお父さんから借りてこないといけないね。

「おやおや、なにやら二人で盛り上がっておるようじゃのう」

 僕がそんな事を考えながら心の連絡帳に銀のカードと書いてると、ロルフさんが話しかけてきたんだ。

 だからそっちを見てみると、ロルフさんだけじゃなくバーリマンさんやペソラさんも一緒に居たからお片づけが終わったって事なんだろうね。

「お疲れ様でした、旦那様」

「うむ。して二人とも、何の話をしておったのかのぉ?」

「はい。ルディーン様が次回訪れた時に本をお求めになりたいと仰いましたので、そのご相談を」

 ロルフさんに聞かれたストールさんは、僕と話してたことを簡単に説明したんだ。

「ほう、本とな? 錬金術の本はすでに手に入れておるようじゃし、魔法についての本もグランリルの図書館にあるとの事じゃったからのぉ。はて、何かの物語の本じゃろうか?」

「伯爵、図書館と言うくらいですから、そのような物はグランリルの村でいくらでも手に入るのではないですか?」

「そうですよ。ねぇ、ルディーン君。パンケーキってお菓子をあんなに美味しく焼けるって事は甘い物が好きなのよね。ならきっとお菓子の作り方が載ってる本じゃない? どう、当たりでしょ」

 本を買いたいって聞いたロルフさんたちは僕がどんな本が欲しいのかって予想し始めたんだけど、残念ながらみんなはずれ。

「ううん、違うよ。あっでも、お菓子の作り方の本はちょっと欲しいかも」

 ただ、ペソラさんが言ってたお菓子の本はちょっと欲しいかもしれないね。

 だっていろんなお菓子が作れたら、スティナちゃんやお姉ちゃんたちが喜びそうだもん。

 一応僕もまだ作り方を知ってるお菓子が幾つかあるけど、この世界にしかない美味しいお菓子も食べてみたいんだよね。

 それにそういうお菓子の作り方を勉強する事で、どうやって作ったらいいかまったく解んないような前世のお菓子の作り方も解るかもしれないもん。

 いろんなお菓子の作り方が載ってる本があるのなら読んでみたいよね。

「そうでしょ。ルディーン君、新しいお菓子が作れるようになったら、また食べさせてくれるかな?」

「うん、いいよ」

 そんな訳でペソラさんに新しいお菓子が作れるようになったら持ってくるって約束したんだ。

「それでライラよ。ルディーン君が手に入れたいと言う本は一体なんなのじゃ?」

 ただ、ペソラさんと二人でお菓子で盛り上がっている間もどんな本を欲しがっていたのか気になってしょうがなかったロルフさんは、そんな僕たちをよそにストールさんから正解を聞き出そうとしたんだよね。

 そして聞かれた方も別に隠す必要が無いからって、あっさりと正解を教えてしまったんだ。

「ルディーン様は魔道具作成の為に魔法陣が載っている本とその描き方が載っている本をお探しのようです。ですから次にお越しになられた時はヒュランデル書店にお連れしようと考えておりました」

「魔法陣、とな?」

 そしたらロルフさんはちょっと驚いたような声を出したんだよね。

 その声がいつもと違ったもんだから、僕は気になってペソラさんとの話をやめてそっちを見たんだけど、

「ギルマスよ。おぬしの出番のようじゃぞ」

「ええ、そのようですね」

 そしたらロルフさんとバーリマンさんが二人して顔を見合わせながら、そんな事を言ってたんだ。


151へ

衝動のページへ戻る